年齢不詳の小さな少女。
俊平に会うまで、危うい一人旅を続けていた。
縁あって麻榎内家の居候になる。
その目的について、彼女は黙したまま、語らない。
無口で、最初はとっつきにくい。
しかし、沈黙の向こうの意志は強い。

縁上 千里
Fuchigami Chisato


何かを探す少女。
聞こえない物。
届かない物。
失った物は、その手の中に。


・・・・・・体を起こすのが、辛い。
ただ、それでも・・・ゆっくりと体を起こしていく。

同時に、耳を澄ます。
何時か聞いた、あの・・・・・・・・・。

手の中で眠る、孵らない卵。
一度は飛び立った鳥の囀りが・・・・・・・・聞こえない・・・・・。

朝。

灰色の朝。

これで何回、夜明けを迎えたことだろう。
でも、何も変わらない。

同じような風景。
同じような風が吹く。
灰色に立ち並ぶ町並み。
顔を変えない空模様。

どこまで歩けばいいのだろう。
どうして・・・・・・・・歩き始めたのだろう?
あんまり覚えていない。
遠くまで来たような気はする。

それでも、歩いていかないといけない。それだけは確かに、覚えている。
忘れるわけにはいかないのだから。

公園のベンチから降りる。
ボロボロのスニーカーを履き直す。
枕代わりにしていた大きなリュックを担ぎ直す。
肩紐をしっかり握る。

・・・・・・・歩いていく。

手の中で眠る卵が、あたしの歌を歌う、その日まで。


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