■幕間 四


バスに揺られているのに、
 タイヤがアスファルトの継ぎ目を超える振動が体に刻まれているというのに、
 私は夢を見ていた。
 これは夢であるとすぐに気づいた。
 だってこれは、いつも見る夢、
 今までに何度も見た夢だから。
 そして、
 思い出したくはない記憶だから――

 そこには、手を繋いだ二人の幼い女の子が並んでいた。
 背恰好もそっくり、顔立ちもそっくり。
 来ている浴衣も同じだった。ただ髪型だけが少し違う。
 二人の少女は同じような姿で、同じように歩く。
 そこは敷き詰められた石畳で、目の前には聳えるような紅い鳥居と、神社が立っている。周囲には屋台が立ち、人並みが薄の穂のように揺れる。楽しくて、どこか寂しい秋の日。涙が出るくらい、高い青空。
 縁日。
 ハレの日。
 御山の神社に詣でる日。
 遠くに、紅く白く明滅しながら飛ぶ蝶がいた。手を伸ばせば届きそうなのに、それは何処か遠くて、現実味がなかった。
「ねぇ、こっちを向いてちょうだい」
 呼ぶ声に、二人は立ち止まり、振り向いた。
 今よりもずっと若く、絵に描いたような幸福を表情に刻んだ、私の両親がそこに立っている。大きく手を振るお母さんと、カメラを構えるお父さん。周囲を取り囲む木々の高さと、その向こうの倒れかかってくるような高層ビルの列をよく覚えている。
「はーい、笑ってー」
 同じように微笑んでいる、同じような女の子が、二人。
 でも。
 本当は同じじゃない。いいえ、それどころか、全然違っていた。
 一人はもう一人よりずっとずっと可愛かったし、一人はもう一人より少し無理して笑っていた。
 それを知っているのは私だけだ。
 多分これからも……ずっと。

 だから、この写真はもう、アルバムの何処にも仕舞われていない。
 いつの間にか無くなってしまった。
 多分、きっと、写してはいけないものが写ってしまっていたから、消え去ってしまったのだ。理由は分からないけど、そうに決まっていた。
 ……この夢を見るたびに、私はそう思い直す。
 なのに、
 なぜか、
 遺失してしまったポォトレィトの在処を求めるかのように、
 繰り返し、
 繰り返し、
 私はこの夢を見る――。



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