〜 はじまり 〜
prelude



いつも通りに高い秋空を見上げる。
そこで、ふと。不安に、なる。


ここは何処だろう。
なぜ僕は、ここにいるのだろう。
・・・なぜ僕は、ここに居続けるのだろう。
それは、突然襲ってくるデジャヴ。
握りしめた拳の先で、舞い踊る風の姿。

全てに現実感が乏しく、だが、
全てに満ち満ちる現実感。

でもそれは、ほんの一瞬のこと。
ビルを掠めて落ちてくる陽射しは、
木漏れ日となって僕の頬をなでる。
それはもう、あの夏の凶暴さが信じられないくらい、
慈悲と愁いを帯びて、
僕らの時間に降り注ぐ。



秋。
一年の折り返し。
取り立てて急いだわけでもないのに、春は穏やかに、
夏はせき立てるように、僕をおいていってしまった。


だから僕は。
今、秋のまっただなかにいる。

緑以外の衣装へと色づき始めた樹陰を出て、
人波揺れる街角を揺らめく。
ざわめき、足音、風の音。
全てが一体となって、鼓膜を心地よく揺らす。

いつからか、僕は秋が好きになっていた。
この季節の訪れとともに、心が嘘のように静まっていく。

それは、希望。
それは、予感。



なぜ僕は、ここにいるのだろう。

それは、僕がそれを捨てられずにいるからだと、思う。
目に見えない大事な物。
机の奥にしまい込んだ、大切な宝箱。
ちょっとオーバーな表現かもしれないけど、
僕はそれを、求め続けている。

だから僕は、こうして街を歩く。
秋が来るたび、ずっと・・・きっと。



ただ。

ふと、不安に襲われて、僕はもう一度空を見上げる。
その理由は解らない。
握りしめた拳では、決してつかめない理由。

冷たさを交えて、高い高い秋空をいく秋の風は、

僕に決して触れさせることのないまま、



そう、彼方へと・・・

彼方へと、飛び去っていった。




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