そら



 てくてくてくてく。
 板張りの廊下を踏む音が近づいてくる。
 柱に背を預け、目を閉じ座していた清弥はゆっくり顔を上げた。
 程なく、狭い客間の障子が開く。
「ふぅ……さっぱりしたわね。あのひとの方はサッパリだけど」
 水分を帯びたまま艶やかに光る黒髪。この神社の主・博麗霊夢は首に掛けたタオルで水気を拭いながら、にこりと笑った。リボン無く下ろされた髪は、幾分歳に似合わぬ雰囲気を醸し出している。だからといって大人びているとは過大評価でもいえないのがなんとも、であるが。
 いずれにせよ、不思議な雰囲気を纏った少女だった。
「梅雨は卯の花を腐らせるっていうけれど、自分が濡れなければ嫌いな季節じゃないわ。大体腐る所を好きこのんで見たい人なんていないものね。それに、雨音は歌みたいで楽しいし、紫陽花も綺麗だし、もうちょっと先の夏を待つのも好き。池は濁っちゃうけどね。でも濡れちゃうとべとべと。大体、この時期に妖怪が境内に入ってくるなんて、面倒もいいところだわ。神社が壊れたら雨漏りで大変じゃない。ねぇ?」
 ほとんど独白よろしく滔々と喋る霊夢に、清弥は少し圧倒される。
「えっと、……彼女は?」
「向こうでぼーっとしてるわ。それにしても、服の着方もお風呂の入り方も知らないってどういうことよ? おおよそいろんな非常識を見てきたけれど、あんなによく分からないひとは初めてよ。自分の方が不自然なんじゃないかって思っちゃうわ」
「………………」
 霊夢が「自然」とは決していえないよなぁと心の何処かで呟きつつ、清弥は敢えて沈黙する。
「その様子じゃ、あなたも何も知らないみたいね」
「否定はしない」
「結構強引な方でしょ」
「それは、分からないけど」
「口数の少ない女の子が好き? 水は掬わずに口を付けて飲むタイプ? 兵隊には選ばれそうにないわね」
「あのな」
 こまっしゃくれた口調が、その場の緊張感をことごとくかき消す。呆れるしかない。
「それよりも、あなたもお風呂に行ってきなさいよ」
「いいよ。水は拭えたし、もうしばらくしたら服も乾くし。このくらいの寒さなら馴れてるんだ」
「そうじゃないわよ。長いことお風呂入ってないでしょ。匂うわよ結構。森の臭い」
「そうか?」
 いわれて腕を嗅いでみるが、自分ではよく分からない。
「自分のことを自分で知ってると思ってる奴は、十中八九無知な奴だ、って霖乃助さんが魔理沙にいってたわよ」
「誰だよそれ」
「とにかく、さっさと身体を擦ってきなさい。気持ちいいわよ。さっぱりしたらご飯作ってあげるから」
「め、めし」
 呼応するように再び腹が鳴る。正直なところ、さっきから脳味噌の半分は食欲によって占拠されていた。考えまいと集中すればするほど、全身が耐え難い欲望を訴えるのだった。
「でも、三人分作るなんて久しぶりね。大体、梅雨にお客なんて普通じゃないもの。普通じゃない料理ってのも悪くないかも。馬鈴薯と薩摩芋のお味噌汁とか」
「いや普通でいいけど……」
 この会話のペースには頭痛を覚えそうだ。清弥は立ち上がってやるせなくぼりぼりと頭を掻く。仄暗い廊下を覗き込み、左右を見渡して、
「そういや、彼女遅くないか?」
「変ねぇ。脱衣所には一緒に出てきたのに。綺麗な身体してたわよ、まっしろで、玻璃みたいなお肌でつるつるしているの」
 霊夢は意識してなかったかもしれないが、清弥は反射的に言葉を失ってしまった。
 腕の中に抱いて森を駆けた時間が脳裏をよぎる。白い服よりも更に白く、それでいてなお僅かに色づいた肌。腕に伝わる暖かさ。
「……どうしたの?」
「な、なんでもない。湯殿まで案内してくれよ。俺は場所わかんないんだから」
「あら、それは案内もいらないような狭い家への嫌味かしら」
「ひねくれすぎだぞお前」
「お前じゃなくて、霊夢よ。お兄さん」
「俺は清弥だ」
 呆れたように瞳を閉じて歩き出す霊夢について、清弥は歩き出す。相手が子供で良かった、自分が動悸を感じていることを気づかれなくて良かった――と、安堵しつつ。
 小さな客間を抜け、障子の閉じた部屋をいくつか通り過ぎる。屋根づたいに庭を横断する渡り廊下の突き当たりが湯殿だった。左右を見れば神社の裏手と森。森には小径が続いていて、木々に隠れるように古びた小屋が見えた。
「履き物が小さいのしかないから、あなたはそのままでお願いね。上がってくる時は足拭くのよ」
「ああ」
 渡り廊下はもう一本延びていて、これまた離れに通じている。
「向こうと間違いそうだな。建物が似てる」
「あっちは書庫よ。梅雨が終わったら本をみんな出して陰干ししないといけないの。黴が悪さをしてないか心配だわ」
「お前……じゃなかった霊夢、ここに一人で住んでるのか?」
「そうよ。どうしたの?」
「いや、一人で暮らすにはでっかいからさ」
「それがそうでもないのよねぇ。呼んでもいないのに変な奴らが次々と押し寄せるし。花じゃなくて靫蔓みたいにしてしまった方がいいかしら? お客が来て私に有益になった試しがないもの。まぁ、そこまで強力な結界の張り方は私も知らないけどね」
 頭の上で赤いリボンを結びながら、まるで他人事のように霊夢が喋る。
 博麗の巫女。
 世界を区切る強力な結界――博麗大結界を守護する、特別な存在。
 清弥は既に、その類稀なる力を目の当たりにしてはいた。彼女がいなければ今頃は妖怪の胃袋に収まっていたはずなのだから。それでも……伝え聞く巫女の姿と、目の前のこまっしゃくれた少女とのギャップには、激しい齟齬をきたしている。
 とにかく、と清弥は思う。
 霊夢についての詮索は、しばらく棚上げにしよう。仮にも彼女は命の恩人だし。少なくとも清弥を悪くは思っていないようだから、そのうち自分から何かを語ってくれるかもしれない。今は厚意にあずかっておくだけにしよう。
 それに、霊夢よりも先に対処しなければいけない件があるのだから。
「さて、着いたわよ」
「ありがとう。案内がなけりゃ分からなかったよ」
「また嫌味かしら。ご飯のおかわりはなしってことでいいわね」
「だからさぁ」
「ちょっと待ってて。様子見てくる」
「……よろしく」
 さすがに女性のいる湯殿にずかずか踏み込むわけにはいかない。
「ねぇちょっと、何してるのよ?」
 引き戸を開いて脱衣所に入る霊夢。湯殿はそれなりに広いようだ。湯殿の壁に背を預けて、清弥は腕を組んだ。
 と、
「……清弥さん、ちょっと来てよ」
 中から霊夢が呼んでいる。
「俺が入って大丈夫なのか……って、彼女に何かあるのか?」
「どうもこうもないわよ」
 不審と不安を覚えて、勢いよく踏み込む。
 湯気が立ち込める脱衣所の向こうの戸を開いて、霊夢がいる。その傍らに立つ。
「水遊びするなら、入ってる間に存分にやるべきだわ。私も嫌いじゃないし、止めないから」
「………………」
 そこには、彼女がいた。
 濛々と湯煙を上げる浴槽にもたれかかり、水面を指先で何度も何度も撫でている。揺れる漣をじっと見つめる。あの虚ろな瞳で……まるっきり泉の時と同じ顔で。せっかく身に纏った白い肌着は水蒸気によって濡れ、肌に張り付いていた。
「清弥さんもそう思うでしょ?」
「…………そうだ、けど」
 無力感を覚える時、人は口を閉ざす。
 今の清弥がまさにその状況だった。


 博麗神社に漆黒の夜が降りてきた。
 降りしきる雨の勢いは、相変わらず強くなったり弱くなったり。強弱の幅は一定の旋律となって、瓦や池や鳥居や森を楽器に、終わらない夜想曲を奏でている。
 蝋燭の炎が複数で、ちらちらと揺れる。
 御膳を前に座った三人が、黙って箸を動かしていた。
 いや、正確には二人。
 一人は箸が茶碗を抉る如き勢いでがつがつと白飯を頬張り、よく噛まないうちからズズズ……、おみおつけで流し込んでいる。主食の他には漬け物が少々という質素な食事であるにも拘わらず、その味をしみじみと噛み締めている。何しろ白米は半年ぶりなのだから、感動もひとしおだろう。
 一人は箸の上に最小限の飯を載せて、ゆっくり音を立てずに食事を進めている。食事に愛情を注ぐとしたらこういう食べ方なのかもしれない。逆に言えば、普段から最小限の栄養しか摂らない生活をしているのかもしれないが。
 そして最後の一人は、茶碗にも箸にも手をつけていない。目の前の少女を見、隣に座る少女を見て、またゆっくりと目を落とす。彼女の味噌汁は対流現象を起こし、カオスの御手に委ねられるまま、ゆっくりと沈殿していく。それを黙ったまま、じっと見ている。
「食べないの? 冷めちゃうわよ」
「………………」
 必死になって頬張っていた清弥の箸が止まる。茶碗を口に付けたまま、頬にご飯粒を張り付かせたまま。少女の横顔を覗き込む。
 相変わらずの無表情だが、泉の前で見せた完璧なまでの異質さは感じない。
 言葉が伝わっていない訳じゃない。
 多分、言葉の意味が分からないんじゃないのか? 自分の意志の伝え方を知らないだけじゃないのか?
 口の中のものを飲み込むと、清弥は茶碗を御膳に返した。
「なぁ」
「………………」
「ええと、腹、すいてないか? 意外とうまいぞこれ」
「意外とってのは失礼ね。普通に美味しいわよ」
「別に貶してるんじゃないんだからいいだろ」
「………………」
 清弥の方を少し……伏し目がちに見遣って、また彫像と化す。
「……ま、食べたくなったら食べるといい。後で御握りにしておいといてやるよ。いいだろ霊夢」
「私の分も作ってくれるなら、いいわよ」
「そりゃかまわんが」
「あとネズミの穴用にもう一つ。選ぶのは小さな葛籠にするから安心してね」
「真面目な話の時は、過剰な冗談はやめてくれ」
「私が本気で冗談をいうと思うの?」
「それは冗談なのか、本気なのか」
 少女は動かない。自分の居場所が見つからなくて困っている。自分勝手な受け取りかたかもしれないが、清弥にはそう見て取れた。
 ……昔から、まだるっこしい人とのつき合いが得意ではなかった。そうでなくては危険な森の生活など選びはしない。人と一緒にいることは安心と楽しさを与えてくれるが、徒に迷い悩むは好きではない。清弥は早々と、自分の持つカードを切ることにした。
「なぁ……ここにも、ないのか? おまえが探している、もの」
 不可視の波紋が揺れた、ような気がした。
 少女の瞳に一瞬だけ色が浮かぶ。明らかに反応している。湯船に立った波のように。そして、少女は小さく、ほんの僅かに、
 ――頷いた。
「…………そうか。ありがとう」
「………………」
「見つかるといいな」
「………………」
 俯き加減が一層深くなった。もう何事にも反応しないと決心するかのように。誤算だったろうか?
「何、いまの? まじない?」
「そうかもな」
 霊夢はやぶにらみで清弥を見遣る。清弥は自分の意図を隠すようにご飯を頬張り、からになった茶碗を霊夢に突き出した。
「おふぁわふぃ」
「三杯目にはそっと出し、ってあなたの辞書にはないの?」
「わふふぇた」
 さっきまで気にならなかった雨脚が、少し強くなっているのに気づいた。


 夜半。
 喋るでも何をするでもなく、ただのんべんだらりんと、尚かつある一定の緊張感をはらんで茶を啜っている(もちろん、件の少女は手をつけていない)と、
「……なんだか眠くなってきたわね」
 霊夢が手の甲で目を擦る。それがきっかけとなって就寝の準備が始まった。
 最初は客間に布団を二つ並べて清弥と少女を寝かせようとした霊夢だったが、清弥に固辞された。
「さすがに会って間もない男女が床を並べるってのは良くない」
「そうなの? 別に構わないじゃない」
「…………これだから子供は」
「眠くても言葉は聞こえるのよ?」
「悪口だけには地獄耳って奴は多いんだよ」
「莫迦にしないで、地獄ぐらい逝ったことあるわよ」
「寝惚けんな」
 ということで、結果的に霊夢の部屋に布団を二つ敷き、清弥はこのまま客間に残ることになった。
「さぁ、いきましょ。眠たくて死にそうだわ」
「よろしくな」
「………………」
 ところが、霊夢に手を引かれた少女が動こうとしない。表情は変わらないが、明らかに清弥を窺っている。神社の階段で見せたのと似たような表情だった。
「俺はここにいるし、何処にもいかないから。別に不安じゃないだろ」
「………………」
「困ったわね。私は眠くてたまらないわよ」
「困ったって、そっちかよ」
「できればここで転がっちゃいたいわ」
 霊夢は既に半眼になっている。
「……分かった。俺は霊夢の部屋の前で寝る。一緒に行こう。それなら、いいだろ」
「布団運び出すの面倒なんだけど」
「上に掛ける布があればそれでいいよ。洞窟で寝るのの百倍はいい」
「その程度なの?」
「まぁ、廊下だしな」
 霊夢から、少女の手を受け取る。
 ほんのり暖かい、柔らかい手が、少しだけ握り返してくるのを感じた。


 障子の向こうのぼぉっと広がっていた灯火と、二人の影がかき消える。
 溜息をついて冷たい廊下に横になると思いの外早く、瞼が重くなってきた。自分が思っていた以上に疲れていたらしい。考えてみれば、警戒を必要とせずに夜を過ごすのも数ヶ月ぶりだった。弛緩する意識。
 いつもの習慣で近くに立てかけた弓と矢筒が、やたら場違いに見えた。
 暗い天井、微睡む時間に、記憶の気泡がいくつも浮かぶ。今日は本当に長い一日だった。
 森でたちの悪い妖怪に出会って、
 泉で「彼女」に出会って、
 ここで博麗の巫女に出会った。
 甘い悪夢のように連綿と連なる出来事。
 長きに渡り、人にあらぬ人の生き方をしてきた清弥。こんなに喋ったのは久しぶりだったが逆にいえば、あれだけ人外未踏の場所で生活していても、見知らぬ人間との交流がこうもスムーズに進んでいる。自分の順応力にも少なからず驚かさせられる。
 そして。
 何かを訴えるように表情を閉ざしたままの少女。彼女ともこの先近く、霊夢と交わしたような、下らない、気楽な会話が出来るようになるのだろうか?
 出来るなら、そうあって欲しいと願う。
 彼女が何者であろうとも。
 普通に言葉をかわせることは、悪いことではないはずだから。それは決して不可能ではないはずだ。そう信じたかった。
「………………まずは、名前ぐらい知りたいよなぁ」
 それは意識しての発言だったのか、寝言だったのか。判別できぬまま、清弥は重い瞼の向こうに落ちていった。

────────────────────

 闇の中にいた。


 自分が何者なのか知っていたし、これからも知り続ける。それはまた、忘却し続けることでもある。意識の表層にも深層にも刻印され続ける。ただ、変化は絶対ではなく、相対は理由にならない。自分はその思惟によって決定された者であり続ける。限りなく無に近い有。過去も、現在も、未来も。それについて自分が抱く感情などあるはずがない。感情は本来、自分が自分でなくなる契機でしかない。そんなものは存在しないし、あるとすれば否定するより他無い。その一切は無意味だ。


 闇の中にいた。


 耳朶を打つのは、潮騒の息吹。
 闇の中、自分の下から聞こえてくる、自分を待つ者共の魂の波頭。それらは皆壊れている。またはまだ、組み立てられていない。自分のそれがそうだから解る。完成は遠い。急がねばならない。完成を待つ巨大な意志を感じる。完成が存在する以上、それは達成されなければならない。論理を越えた使命が自分を突き動かす。それを為せ、己の全てを以て。


 では、その自分とは一体何なのか?


 自分が完成していないと知りつつ、自分の完成すべきものの完成を目指す?
 解っているが、解らない。


 闇の中にいた。
 ただ、その世界に下方があるとすれば、その世界には上方がある。
 上方から下方へ流れるものがある。
 ゆっくりと上を向く。
 それは達成すべき世界ではない。


 そこにあるのは、知らないもの。
 闇以外のもの。


 そこにあるのは―――

────────────────────

 雲雀の声がした。四十雀も啼いている。これほどはっきり聴いたのは最近なかったことだ。
 何故だろう?
 自分の腕を枕に寝ていた清弥がゆっくりと起きあがる。眩しい。神社の境内に面した廊下。あちらこちらに出来た水たまりが、きらきらと輝いている。
 徐々に目が覚めてきて、
「おはよ」
 境内に出ていた霊夢が声を掛けてくる。
「ああ、おはよう」
 目覚めの挨拶をしたのも久しぶりだなと思いつつ、ゆっくりと立ち上がり、背を伸ばす。
 そこでようやく、
 聴覚が冴えている理由に気づく。
 雨音が消えていた。
「あがったな。今年の梅雨は長かった」
「ええ。やっと夏が来そうね。今年は暑くなりそう……でも、こんなに地面が濡れてるんじゃ掃き掃除は出来ないわ。今日はまず、昨日清弥さんが握ったおにぎりを食べることから始めましょうか」
「食べることばっかりだな」
 苦笑しつつ、手水舎にいって顔を洗わせて貰おうとして、
 背後に人影を感じた。
「………………」
「あ、……おはよう」
 少女は答えない。
 ただ茫然と、
 茫然と、
 廊下を降り、裸足のまま境内の中央へ進んでいく。
 途中の水たまりにも躊躇することなく。寝間着の裾を水が浸す。
「あーあー、また汚してる。よっぽどお風呂が好きなのね、あなた」
 霊夢が腰に手を当てて膨れっ面をしている。
 清弥は言葉無く、少女の姿を見つめている。
 そして少女は、
 真っ直ぐに、地面に垂直に立ち、
 ゆっくりと顔を上げていく。
 東から来る暖かい風が、黒い雨雲を千切れさせて西へ運んでいく。西方浄土へ向かう天の道。その風が夏を告げている。じりじりと肌を焼き始める熱い日差しに、木々の、草花の無数の雫が連環となって答えている。
 遙かに響く響きは、静かに近づく夏の息吹。
 清弥は静かに少女の横に立ち、同じように見上げてみた。
 彼女に見えているものが、自分には見えているのだろうか?
 ………今は多分、見えない。
 でも、いつか見えるようになるような気がした。
 ただ、
 今の自分に見えるそれは、
 真っ青な、何処までも真っ青な、
「……空だな。綺麗な、空。久しぶりに見たよ」
「…………そ、ら?」
 少女が首を巡らし、清弥を見る。
 人形のような表情は変わらない。
 ただ、いつの間にかその手は清弥の手を、清弥が差し出す前にいつの間にか、
 弱いながら、力を籠めて握っていて、
 そしてようやく、清弥は気づく。


 彼女の二つの瞳は、真っ青なそらを映していた。